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小児病棟から(94) ゲーム転院

 ゲームの両親の住む街は、看護師チアップが生まれた町でもある。

 先日、彼女が帰省した折に市場で偶然ゲームの母親に出会ったそうだ。何故病院に来ないのかと尋ねると、「お金がないので」というお決まりの言い訳をしたそうだ。、

 「言い訳」少なくとも私にはそう映る。両親を始め、見舞いに訪れた身内の人々の身なりを見る限りでは…

 ゲームはその地のF病院で生まれ、すぐにN県立病院に転送された。軽快したと判断されF病院に戻ったが、数日を経ずしてまたN県立病院に送られてきたという。

 そして、その後の10ヶ月間は、ずっとICU(集中治療室)で過ごしたものの、両親の面会はなく、2ヶ月ほど前に病棟に上がってきたのを機に、母親が3週間程付き添っていた経緯がある。

 
 そのゲームが再びF病院に転送されることになった。さほど容態が良くなったとは思えないが、小康状態を保っているいま、登録病院にお引取りいただくということなのだろう。

 この至極当然の処置も、親が付き添っている子どもであれば、心から「良かった」と思える。

子どもの容態が軽快した喜びは勿論のこと、故郷を離れて看病を続ける親御さんの気持ちを思っても嬉しい。彼らにとっては待ち望んだ決定だろうから。

 しかし、ゲームを始め、「望まれぬ子ども」の面倒を看、転院後の予測がつかないような子たちを送り出すのは本当につらい。

 そのような子どもたちの一部が、「Vホームの子ども」として戻ってきたが、中にはそのまま再会を果たせない子どもたちもいる。

 「結局親が面倒を看ているのだろうか、それとも…」


 セームは勿論のことテンのように、予後に幾ばくかの希望が持てるのであれば、私のような他人でもなんとか救う方法も考えられる。でも、一才の今もミルクも吸えぬまま、チューブに頼り、酸素吸入が欠かせないような子どもを育てるのは、手に余る行為だと思っている。

 それが出来るのは、たぶん実の親だけなのかも知れない。


 「彼は帰りたくないんだよ」

 ひどい咳き込みで、顔を真っ赤にしながら苦しんでいる彼を見ながら、チアップがそう言った。

 「そう、ここだったら少なくとも私たちがいるものね」

 だからと言って、転院を止めることもできない無力な私たち。
by karihaha | 2005-07-20 11:49 | 小児病棟から | Comments(0)
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