ストリートチュルドレンを救済するNGO、
VGCDで働く友人から聞いた話。
2月も末にさしかかったある朝、一人の女性がメーサイにあるビルマ・タイ国境に掛かる橋を渡って、友人の事務所に訪ねてきた。1才半の男児を連れたその母親は、「他に話を持ちかけようとしたら、周りの人たちにまずVGCDに相談した方が良いと勧められたので来た」と言った。
その話とは、子どもを『売る』ことだった。
友人は説得に努めた。お金が欲しいなら事務所でお手伝いさんとして働かせてあげる。集まってくる子どもたちが内職として作っている手工芸品を一緒に作ってもいい等々。もちろん親としてのモラルも説いただろう。しかし母親はどの提案にも応じなかった。『売る』そのことだけに固執した。
お金が欲しい。子どもは欲しくない。直面する2つの問題の解決策は、『子どもを売ること』。それがその母親が考えうる最善の結論だった。
8時間にも及ぶ説得工作。その甲斐もなく、自説を曲げない母親。ついに友人は‘切れた’。
「じゃいくら欲しいのよ!」
800、700、600…….
金額交渉は100バーツ(300円)で落ち着いた。友人のポケットマネーのそのお金を受け取って母親は帰って行った。
断ればどこへ連れて行くか分からない。それ以外に方法はなかった。
「後悔して引取りにくるかも知れない」、そんな想いで待つ友人たち。でも母親はぷっつりと姿を消したまま。