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HIV/AIDS(2) 母子感染

 いまAホームの子どもで入院しているのはサシガーン1人である。彼女はVホームからAホームに引き取られた6ヶ月になる女児で、HIV感染者であると同時に、身障者でもある。前頭部の幅が極端に狭く脳障害があるようだ。幸いなことにこのホームの責任者の方針で、入院している子どもがたとえ1人でも24時間体制で付き添い保母がつく。

 Vホームの子どもの世話をしていると、Aホームの保母が「サシガーンはネガティブだった」と言った。HIVが陰性反応という意味である。彼女がHIV感染者でなかったことは祝福すべきことだけど、、、」と言ったきり言葉に詰まった。

 AホームはHIV感染孤児のみ受入れているので、彼女はまた施設を移らなければならない。K孤児院に戻される確率が一番高いだろう。正直言って、Aホームがそのまま彼女を育ててくれるのが理想だと思うが、今までもそれをしていない、出来ない理由がある。その一つは2次感染である。

しかしなぜこのようなことが起こるのであろう。それを理解するには「HIVの母子感染」について知る必要があるだろう。

HIV母子感染とは

 HIV母子感染率は先進諸国で15-25%、アフリカでは50%前後、世界平均で30%といわれている。母子感染の原因は1)子宮内、胎盤感染2)分娩期、3)母乳、と3つの可能性がある。陣痛が起こるころになると胎児を包んでいた胎盤の一部が剥がれ、母子の血液が混じりあう。難産の場合、破水後から出産までの時間が長くなり、同時に血液にさらされる時間が長く感染率も高くなる。

 さらに母親の血液中のHIV菌の数にも関係がある。多ければ多いほど感染率が高くなるわけだ。感染予防法としては1)妊婦のHIV検査、2)妊婦に抗HIV薬を投与し、HIV菌の増殖を防ぐ、3)分娩時間の短縮(帝王切開)、4)新生児の消毒、5)母乳の禁止、6)新生児への抗HIV薬の投与、があるが、6)は副作用の懸念もされている。母子感染の診断は、日本では出生直後、1週、4週、24週に2種類のHIV検査をする。検査を繰り返し、そのデーターをもとに生後6ヶ月ぐらいには結果がでるが、母体から引き継いだHIV抗体(HIV菌ではない、次の章で説明)の影響が最終的に消えるのは生後15ヶ月ぐらいのため、通常もっとも安全な期間は18ヶ月間と言われている。

 小児病棟のHIV担当S医師によると、タイでも同様の取り組みがされているという。日本と同様、任意で妊婦にHIV検査を奨励しているが、その率は90%に留まっている。検査を受けない理由は「主人に反対されている」というのが圧倒的多数であるらしい。ここにも‘主人の買春―妻から子どもへ’という感染ルートが見えてくる。そのような場合はコンサルタントが仲介し、100%の検査率を目指しているとのことだ。

 Vホームの場合、捨て子や強姦、あるいは血液検査をしていない母親から生まれた子どもは、まず「HIV感染児の家」で養育される。これは親のHIVに関する情報が入手できないためである。検査を繰り返し、旬日を置いて晴れて「シロ」となれば、その年齢に応じた家に移される。

 サシガーンの小さな身体ではとても受け止められないような人生の苦、すなわち孤児、HIV感染児、身体障害者というラベルのうち、一つが取り払われたわけだが、その代償としてAホームを去る運命にある。では、彼女のあと2つの苦を親身になって、共に戦ってくれるような擁護者は現れるのであろうか。
by karihaha | 2005-03-04 20:52 | HIV・AIDS | Comments(0)
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