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カテゴリ:国立児童擁護施設( 1 )

「V児童養護施設 活動報告書」 まとめ

                  入所理由
家族と共にあれ
 V児童養護施設管理下の子供たちが常時500人以上いる、といっても全員が施設内で暮らしているわけではない。タイでもご多分にもれず‘小さな政府’を目指しているので、予算面からも民間機関や個人との提携を余儀なくされている。

 「子どもは家族のもとで育つのが一番」という理念のもと、まず入所申込みの段階から、児童福祉司が仲介に入り、子どもを手放そうとするにいたるまでの経緯を聞き、問題を解決すべく相談にのる。生活苦が原因であれば、物的、金銭的支援も考慮に入れられる。そのようにして入所を出来るだけ避けさせるようにするがそれでも年間170人以上の子どもを受け入れざるを得ない状況にある。

捨て子、婚外出産、親の都合
 入所の理由としては、親の病気、刑務所服役中というのがある中に、一番多いのは捨て子、その次が婚外出産、つまり「未婚の母」が生んだ子供である。ここタイでも学生や未成年の性の乱れが社会問題となっているが、親の世代は勿論それを許容しておらず、その上、仏教心に篤い国民性と妊娠中絶は非合法ということもあり、結局内緒で生んで捨てるというケースが多い。

 余談になるが、妊娠理由が「強姦」であれば、比較的簡単に子どもの扶養義務の放棄が認められる。どこまでが強姦でどこからが「和姦」なのか真偽のほどは分からない。日本であればしかるべき調査及び、検査があってのことだろうがタイではその辺はどうなっているのだろうか。

 Vホームのある敷地内にそのような18才以下の妊婦が出産までの期間を過ごすための駆け込み寺的な施設もある。まだあどけない雰囲気の残る女性たちが、大きなお腹をして、敷地の中を散歩したりしているのを見ると、暗い気持ちになる。

 結局彼女たちが産み落とす赤ん坊たちも孤児院に預けられることになるのだから。ある日、年配の保母がまだ生まれたばかりの赤ん坊を抱きながら嘆いていたことがある。「私はこの子の母親の面倒を看てきたけど、その母親がまた同じ事をしている」と。

 その保母も言ったように、このように大きな施設では人手不足もあり精神面のケアは2の次、3の次でとにかく衣食住の世話で追われているのが現実だ。24時間体制ではあっても、最低で20人以上、時には30人もの乳幼児に4,5人の保母という状況では行き届いたケアは望むべくもない。言葉は悪いが、「とにかく生かしておく」のが精一杯であろう。

                    退所理由
家族のもとへ  いくら入所を阻止するように努力しても毎年150人以上を受け入れざるを得ない現状では、そのまま施設内で育てるのにも限界がある。そのため、政府の責務を軽減するための方策がいくつか取られている。まず一番力を入れているのはもちろん家族のもとへ返すことだ。退所理由もそれが一番多い。刑務所に服役する親や一時的な経済的困窮に身を置いている人が、子どもを預けていく場合もあるので、状況が回復すれば引きとるのだ。

 それが子どもにとり一番幸せであるというのは、親のもとへ帰った子供と再会したとき実感した。腎臓病で月一回病院に輸血を受けに来る8才の男の子、いつも一緒に来ていた孤児院からの男の子と来なくなったと思っていたら親元に帰ったと言った。「今日はおばあちゃんが連れてきてくれた」と誇らしげにいう彼の顔は輝いていた。ある日、3時に病院に迎えに来るという父親の到着が少し遅れ、不安顔の彼が私に携帯電話を貸して欲しいと頼んだ。その時彼の気持ちに何が去来していたのか、、、想像でしかないが孤児院の経験が影を落しているのではないかと心配なった。

養子縁組
 次に多いのはタイ人家庭と外国人家庭に引き取られる養子縁組だ。どの国で養子縁組をするにも複雑なプロセスを通らなければならないが、タイでもご多分にもれず、労働社会福祉省管轄下の養子縁組センターが規定する厳しい資格審査を無事パスしても、申込みをすませたあとも長い待機期間がある。平均で2年というその期間、余程の愛情と決意がないと気持ちの持続も難しいだろう。

 先日在留許可の件で日本でも話題になっていたタイ人女子中学生のように、婚姻した相手の連れ子や親族を養子にするような場合とは違い、Vホームの子供を引き取る場合は一面識もない子どもであるのが普通だ。さらに養親には子どもを選択する権利はない。めでたく養子縁組が決まり、迎えに来た段階で、「この子をお願いします」と引き渡されるのが常である。

 子どもの側にも一定の条件が課せられる。まず一部の例外、つまりHIV感染児希望とか、傷害児希望などの特別なケースを除いて、健康であること、それと本来の扶養家族と連絡がとれる子どもが条件となる。Vホーム入所時の手続きの際も養子縁組に応じるかどうか聞かれるが、本格的になればその旨書類にサインする必要があるからだ。そういった意味で、捨て子は養子縁組の対象にはならない。

民間施設
 しかし捨て子はずっと施設にいなければならないということではない。民間施設に保護・養育を「委嘱」されることもある。タイの法律で捨て子は政府の管轄下にいなければならないと規定されている。民間施設は政府の委嘱機関であり、孤児が居住場所を換えても、あくまで政府の責任下にあるという認識をされている。

 引き取られる民間施設には、日本でも有名な「Bホーム)の他にクリスチャン系の「Aホーム」のようにHIV感染児のみを受け入れている施設や、健常児のみを受け入れている施設が多数ある。いずれも前述の労働社会福祉省、社会福祉局の審査にパスした施設である。

里親制度、グループホーム
 その他には、里親制度やグループホーム制度で施設を出て行く子どもも多い。里親制度とは1.2人の子どもを家庭で預かり、養育することで、ビィアンピンホームはこの制度を1998年から取り入れた。この制度のメリットは、子どもが一対一のケアを受けられることで、身体面でも情緒面でも普通の家庭で暮らすような発育が望めるであろうということである。

 また、政府にとっても施設の建設や、職員や保母の雇用などの費用が軽減できるメリットがある。里親には月2,000バーツ(約6千円)の補助金と、子どもの必需品(ミルク、衣類、おしめ、ベビー用品等)の支給があり、職員が1ヶ月、1.2回各家庭を巡回訪問し子どもの様子をみたり、物資を運んだりする。預かっている子どもの養子縁組が決まれば、手放さなければならないのは、子どもにとっても里親にとっても辛いことではあろうが、子どもの将来を思えば、非常にやりがいのある仕事であろう。グループホームは預かる子どもが里親制度より多いという違いがあるだけで、その他の点では制度上も大差がない。

 里親になる資格はタイ人である必要はなく、私が知っているだけでも24才の独身アメリカ人女性が2人の子どもの里親になっており、他にも数人の外国人がグループホームを開いている。漏れ聞いたところでは、外国人でもきちんとしたビザ(日本の退職者の方たちが持っているロングステイビザやノンイミグレーションビザ、あるいは結婚ビザ等、一年間有効のビザ)を所持し、居住環境が適当で、生活面で問題なければ比較的簡単に許可が下りると聞く。

 それにつけてもこの養子縁組、民間施設、里親といった面での西洋人の方たちの熱心さは私たち日本人の比ではないとつくづく思わせられる。個人主義と評される彼らであるが、私見であるが、これは利己主義という意味ではなく、自分の‘個’を尊重すると同時に他人の‘個’も大事にするというように解釈している。その概念と、キリスト教の影響であろう、長い間培われ自然に身についた‘慈悲、慈愛’を個人ベースで実行するのに躊躇しない人が多い。

HIV感染児
 最後に触れておきたいのは悲しい理由で退所していく子供たちのことだ。私が手にいれた資料には2002年10月から2003年9月までの間に12人の子どもが死亡したとある。そのうち11人がHIV感染児である。タクシン首相が主張するようにタイは‘先進国’に仲間入りしつつあるかもしれないが、HIV禍はその本格的ステップへの足かせになっているのは確かだ。北タイに身を置いていると、日常茶飯事で感染者に出会ったり、感染者の家族や友人を持っている人たちと出会ったりする。政府発表では人口62百万人中、百万人の感染者ということで、これは60人乗りのバスに1人の感染者の割合だが、私の感覚では大型サロンバス24人乗りに1人ぐらいに思えて仕方がない。

 民間施設に引き取られたHIV感染児も、重症の場合健康保険の関係で私がボランティアをする病院に入院してくるのが普通で、必然的に彼らの最期を看取ることになるときがある。そのたびにこの病気の理不尽さ、容赦のなさに怒りに似た感情を憶える。

最後に 
 前述した全てのことは、一時的にしろ保護者がいない子どもたちを前にして、‘大人’が最善の対策を練った結果の彼らの‘処遇’であるが、その中で憶えておかなければいけないことは、親や親族のもとに帰るという処遇以外は彼らの意思が含まれていないということである。しかも新しい環境で生きていかなければならないのは彼ら自身である。たとえ新生児であれ、保護者がいないということでその決定を1人で受け止めなければならない。そのことに充分配慮して子どもにとり最善の道を注意深く模索していただきたいと切に思う。
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by karihaha | 2005-03-04 20:48 | 国立児童擁護施設 | Comments(1)