手持ちぶさたそうにしているベンに聞いてみた。
「ベン、学校楽しい?」。 彼はこちらで通称「ポー6」という小学校6年生。もう間もなく学期が終わり、長い夏休みのあと、5月下旬から始まる新学期から「モー1」と呼ばれる中学1年生になる。 「ウン。楽しいよ」。 「先生優しい?」。 「ウーン。ときどき棒とかで、ほらこれぐらいの長さのでビシーって」。 「エー!叩くの?」。 学校の先生がそういったものを持っているかは確認したことがないので、断定は出来ないが、Vホームと同じ敷地内にあるボーイズホームの‘保父’が持っているのは見たことがある。 列になって食堂に向かう男の子達の一番後ろで、太った彼がムチのように細い棒を揺らしていた。 以下の話は、超不定期刊行の友人向けの「チェンマイ便り」にも書いたことだが、去年11月のある日、頬に大きなガーゼをつけた8才ぐらいの少女が病棟に来た。保護者らしき人が看護師に説明しているあいだ、その少女は病棟の雰囲気にのまれたようにきょろきょろと辺りを見回していた。 ベッドが指定され、彼女たちがその場を離れた途端、その看護師が「いまの子、学校で友達と話していたら、別の子が妬いてナイフで切りつけたんだって」と説明してくれた。付き添ってきたのは先生だという。 「すわ!警察、報道陣、テレビカメラ、教育関係者の会見」、と思っていたが、何も起こらなかった。 先生も帰ってしまい、くだんの少女は、一人保護者の到着を待っていた。翌日そのベッドを見ると、もう少女の姿はなかった。事態の決着はどうなったのだろう。 これはあくまで、想像だが保護者間でなにがしかの金銭か、物品で話がついたのではなかろうか。 これが日本であれば、教育関係者の記者会見が開かれ、評論家たちが、ケンケンガクガクの論議を展開し、保護者が大挙して学校に押しかけるだろう。 この‘温度差’はいったいどこから来るのだろう。タイでは法の番人であるべき警察に信頼が置かれていないという点が第一にあげられると思う。警察を絡ませると、かえって話がややこしくなるという認識が一般庶民のなかにあるようだ。その結果、当事者間で‘慣習法’的な対処で事をおさめることも多くなる。 前述のムチと言い、頬を切られた少女といい、子どもの人権についての大人の認識が低いということの一つの表れだとは思う。その一つの結果として被虐待児の問題が起こったり、障害者が「世間に恥ずかしい」という理由で家に閉じ込められたりする事例があるのは否めない。 一方、日本ではそれとは対象をなすように、‘子ども様’と読んでもいいぐらい大事にされている。過保護といっても過言ではないと思う。 タイの子どもは「様」ではないが、子どもらしさを保ち自由で、目もきらきら輝いている。一方大人との関係は、未婚の段階ぐらいまでは親の権限が非常に強い。一昔前の日本のように、「親の背を見て育つ」式の教育方法がなされているように思う。 庶民層の自営業者、例えば食堂を営む親であれば、その子どももある程度の年齢になれば、親の仕事を手伝うのは当たり前で、夕方や週末の食堂では子どもが注文を聞いたり、水を持ってきてくれたりする。片隅で宿題なども済ませているようだ。 私の好きなソンテウの車内での出来事、18才ぐらいの若者が3人乗り込んできたと思ったら、それまで車内にいた50才ぐらいの女性が彼らに話しかけた。一瞬顔を見合わせていた青年たちだが、すぐに会話が弾みだした。 大人世代と子ども世代のコミュニケーションがこれほど自然に出来る。いろいろと問題を抱えてはいても、これも「タイ式教育法」の一つの形であり、結果であると考えている。
by karihaha
| 2005-03-16 00:25
| 小児病棟から
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Comments(2)
タイの学校で教師が「細い棒のようなムチ」を生徒に対して使う件ですが、確か2・3年前の新聞で通達で禁止になったと記していました。理由としては、昔ほど生徒は教師を信頼しておらず、ムチの躾けは逆に生徒の教師への反感を増幅するだけである・・・様な趣旨でした。
現役の教師にちょっと確認してみる必要がありそうですね。
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karihaha at 2005-03-18 01:43
そうですか。それではベンが言っているのはVホームでのことかも知れないですよね。私も確認してみます。いずれにしろ、そのような通達がすでに出ていると知って、ホッとしました。
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