アームがVホームを出て2ヶ月足らずになる。その間に母親と会ったのはたったの一度。
「いつでも会ってください、その方がアームの情緒面に良いから」 何度そういったか分からない。オートバイしかない彼女がアームを連れ出すのは難しいだろうからと、指定の場所まで送り、時間がきたら引取りにいくからとまで言っているのに。 ジョンの要請で、母親をもう一度呼び出すことにした。アームをどうするつもりなのか、本当に自分が育てるつもりなのか、彼が一番知りたかったのはそのことだった。 「母親があとになってやっぱり育てたくない、というようなことにでもなれば、それだけ時間を無駄にしたということになる」 何が無駄かというと、それならもっと先に養子縁組の手続きをスタートできていたのにということらしい。 母親が大学を卒業するまでという約束だったのだから、これから長くて1年として、そのとき養子縁組の話しが出たとしても、年齢制限6才までにはほど遠い。それから成立までに半年もかからないだろう。アームは生鮮食品ではないのだから、彼の‘鮮度’が落ちることはない。 ジョンの気持をありていに言うと、男手一つでの育児に限界を感じている上に、先の見えないことに苛立ちを感じているということなのだろう。 ジョンはタイ語が出来ないのをいいことに、私に言いたいことをぶつければ、私がなんとかすると思っているふしがある。 この件について私の考えは変わっていない。母親が学業を終えたら面倒を看るのがベストであり、養子縁組は選択肢がなくなったときに考慮に入れる問題だと。 約束は12時。遅れること1時間、やっと現れた。 「雨が降って、雨宿りをしていたもので遅くなりました」 それならそうと連絡してくればいいではないか、と力なく思う。 まず一番聞きたかった「何故会いに来ないのか」を聞いてみた。それには昼間は大学に行き、夜はレストランでキャッシャーの仕事をしているので、仕事が終わるのが夜11時ごろになると言った。では週末は? ジョンの家で会うのは窮屈だろうと、自宅まで送り届けると言ったのにそれを受けない理由が理解出来なかった。それに対しては「村の人たちに、自分に子どもがいると知られたら困る」 最後に、アームを将来育てる意思があるのかどうか。今日の話し合いに始まったことではなく、一番大事なことはこの点につきる。ジョンの知り合いを通じて養子縁組ができることは、母親には伝えていない。 「絶対育てます!」 それならと、考えていた条件を提示した。 今後は一時間でもよいから週一回必ず会いにくること。 来年2月に卒業したら、アームは日中だけジョンに預け、夜間は自分で面倒を看ること。 要するに、養育責任をジョンや私にだけ押し付けるのではなく、親としての責任を自覚してくださいということに尽きる。 「今後はミルクも買います」と言ったのを受けて、アームが飲んでいるブランド名を伝える。こんなことも親としての自覚に繋がるのではという気持から、あえて拒まないようにした。 横に座っているジョンに最後にことの次第を説明する。3月から夜間の面倒を看ないというのは、実現不可能かも知れないので、その辺は含んでおいて欲しいとお願いする。 一応双方が合意し、話し合いが終わった。 アームの成長振りには目覚しいものがある。日々、進化を遂げる彼を目の当たりにすると、命の神秘を感じざるを得ない。 アームの母親も、そんな貴重な時期を見逃す手はない、もったいないとつくづく思う。
by karihaha
| 2005-06-12 04:30
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