「この子は前世の行いが悪かったから、こんな風に生まれてしまったのよ」
テンを見やりながら、そうVホームの保母が言った。 上座部仏教の熱心な信者である彼女が信じるところの、「輪廻転生」と「カルマ(業)」の帰結するところが、テンのいまの病状であるらしい。 このような考え方をするタイ人に出会ったのは、何も彼女が初めてではない。 早朝のお坊さんへのタンブン(喜捨)を始め、何か良い行いをするのは、自分の良いカルマを蓄積するため。「もう天国に行ったんだから楽になったよ」、と誰かが亡くなると必ず聞く言葉。それと同じぐらいの頻度で聞く、「つぎ生まれ変わったら…」。 宗教上の理念に否やと声を挙げるほどの教養を持ち合わせない私だが、このような心ない言葉には生理的な反発を感じる。 私の浅学な仏教の知識では、仏陀は「この世に生まれてくること自体が苦である」と仰ったはず。 そんな運命を背負ってしまった私たちは、「同病相哀れむ」を自覚し、他人には慈愛を持ちながら、良いカルマを残すために、一人一人この苦しくて短い生を研鑽しろとの教えだと理解している。 テンや子どもたちが痛い思いをしながら、生との戦いを続けている。その生き様、‘カルマ’は同時に彼らの私たちへの‘慈愛’だと思う。 さまざまな想念を掘り起こし、自身のカルマへの投射に導いてくれる… そんな冷静な考え方は、あとで心の整理が出来たときに初めて生まれたもの。 聞いた当初は、「児童養護施設の職員ともあろう人がなんてことを言うんや!」と怒りに震え、その気持ちは今も残っている。 彼女の狭量な発言は、宗教理念以前の「目○○、鼻○○を笑う(汚い例えですみません)」といった類のものと一笑に伏せばいいのかもしれないが…
by karihaha
| 2005-07-05 02:45
| 小児病棟から
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