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小児病棟から(112) 知るのが怖い

 N県立病院の廊下を歩いていると、「勝手知ったる…」の思いが湧いてくる。廊下で行きかう人々も顔見知りの人が多いせいもあるだろう。

 一週間ぶりに訪れた病棟の手前でAホームの保母さんに呼び止められた。可愛い1歳の男児と一緒に遊んでいる最中だった。

 「昨日も、一昨日も顔を見なかったけどどうしたの?」

 「テンがS病院にいるから」

 『居て普通の人が居ない』。それにはもっと複雑な事情があるんですけどね。


 ゲームはまだ高熱が続いていた。ビクタージュニアはVホームへ。そしてICUから上がってきていた、「ドナルドダック」というあだ名の女児は再びICUへUターンしたとのことだった。

 周りを見渡すと、一人の幼児の姿が目に入った。付き添いはいないようだ。ベッドサイドテーブルを見ても、それらしきものが何も置かれていない。

 近づいてみると、黒ずんだかさかさの肌と白い部分のそれが際立ち、ところどころ日焼け跡のように皮がむけている部分もある。

 短く刈った頭は、洗髪が不十分なのか白い綿のような粉がふき、その上、一部分は毛髪自体がなくなっている。

 黒目は白く汚濁し、恐らく見えないのではないかと思われた。

 
 おしめを換えてみて女児だと分かった。眠ってはいないのだろうが、身じろぎもせぬまま、されるがままだ。

 指を見ると、乾いた肌を引きむしったあとが何箇所もあり、血が滲んでいる。周りにはむしった皮が飛び散っていた。

 これ以上むしらないようにと、両手をおしめでくるんでいた、その時だけ、「ウー」と声をあげた。


 一体何の病気なんだろう。

 チアップと目が合うとすぐに、「この子、誰も面倒を看る人がいなくて」と言った。

 病名は、「ビタミン欠乏症、つまり栄養失調」らしい。

 
 3歳の子どもが、このような状態になるまで放置されていた。どのような原因と経過だったのか、知るのが怖いような気がする。
by karihaha | 2005-09-02 07:44 | 小児病棟から | Comments(2)
Commented by asian-life at 2005-09-02 10:18
こんにちは。いつも読ませていただいてますが、なんとコメント書いてよいやら、毎日悩んでしまいます。んんん‥。
とりあえず、おいしいものを食べてください。(私は何か食べると、少し幸せになれるので!)
Commented by karihaha at 2005-09-03 06:43
私の元気のもとは、「ビアチャン」かもしれません。どんなに大変な一日でも、とりあえず一杯。すると明日への活力が… 私は自他共に認める「赤ちゅう(赤ちゃん中毒!)」ですが、ひょっとして「アルチュウ」でもあるのかも…
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