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HIV/AIDS(3) HIV感染のメカニズムと経過

 よく言われているのは、初感染するとまず2週間後ぐらいに風邪に似た症状に襲われることだが、それからあとは長いあいだ特に目立った自覚症状がないまま過ごす。しかしエイズ発症までの8年から10年の潜伏期間中もHIV菌は増殖し続け、同時に免疫細胞を破壊し続けている。この潜伏期間中に自覚症状がないまま、予防なしのセックスをし、2次感染をした、させられたという悲劇があとを絶たない。

 ある日ふと、「HIVの検査でも受けてみようかな」と思ったとする。しかし思い当たることが例えば前日のことであった場合、結果は必ず‘陰性’となる。なぜか?それは体内に‘異分子’が入ってきた場合、‘識別隊’が「誰か新米が入って来たぞ」と‘新米レッテル’を貼り始めることを抗体といい、この抗体があるかどうかの検査をするのが、世間一般に言われているHIV検査、正しくは「HIV抗体検査」であるからである。この‘抗体=識別隊’の初出動には時間がかかり、HIV菌の場合早い人で4日、殆ど全員が45日目ぐらいにしかその存在が確認できないためだ。

 HIV菌がターゲットにし、宿主交換を要求するのは免疫細胞でも親玉格のT4細胞だ。T4細胞は表面にCD4という触覚のような門番を置いている。たまたまこの門番が預かる鍵とHIV菌の持っている鍵がピッタリと合うため、HIV菌が易々と‘不法侵入’し、巧みな方法でその細胞の従来の持ち主の特質を変化させ、‘我が家’にしてしまう。

 HIV感染者と認定された場合、患者の重篤度は普通、免疫親玉であるT4の門番、すなわちCD4の数(CD4カウント)で表される。CD4は非感染者の場合血液1ミリリットル中600から1400であるが、一般に初感染から8年から10年後にCD4カウントが200以下ぐらいになると、エイズを発症する。

 ‘エイズ’は後天性免疫不全症候群とよばれるように、一つの病気の名前ではなく、免疫細胞の破壊で免疫力が落ちたある時点で発症する病気(日和見感染症)の総称で、日本では結核、カポシ肉腫など23の日和見感染症が認定されている。その内一つでも症状が出ればエイズ患者とみなされる。

 残念ながら現在HIV菌に直接効くワクチンなどの医薬はまだ実用化には至っておらず、HIV菌の増殖を抑える「抗HIV薬」が広く使用されている。「抗HIV薬」にはHIV菌の行く手をはばむ作用があり、薬が進行を防いでいる間に、少なくなった免疫細胞の増殖を促すというメカニズムがある。「カクテルテラピー」あるいは「3種混合」という言葉をお聞きになった方も多いと思うが、この名前の由来は、HIV菌がCD4門番を騙して、T4親方宅へ家宅侵入してから自分の‘陣地’にしてしまうまでに段階的プロセスを踏むので、その個々の段階のいく手を阻むのに効果のある薬を3種ないし4種同時に服用することから名付けられたものだ。

 抗HIV薬の服用には時間厳守が必須の条件となる。一日2回ないし、3回なりの服用時間を守らないと、その間に薬で足止めを食っていたHIV菌の‘たが’が外れてしまい、再び進攻するスペースを作ってしまう。HIV菌は押さえつけられている間も、薬と闘っていたので耐性をつけている。もし薬の飲み忘れや服用中止を繰り返すとどうなるか?ますます強い耐性を持つ菌をのさばらせることになり、新薬の対応が追いつかなくなる。

 しかしなんと言っても一番良いのは「HIVに罹らない」ということである。男女間の場合パートナーがお互いに検査をし、非感染者であると確認すると同時にその関係のみに忠実であるならば問題ないが、不特定の複数のパートナーが絡むと感染の可能性が出てくる。そのような場合は「予防つまりセーフセックス」につきる。

記:スマトラ島沖大津波、ボランティア報告」を書いた医師が、エイズ患者の症状を記録し、学術資料として広く公開している。関心のある方は、ホームページhttp://www.aids-hospice.comをご参照ください。

*次回はHIV感染者に対する日本政府や病院の取り組み。医療費負担について。
by karihaha | 2005-03-04 20:54 | HIV・AIDS | Comments(0)
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