2005年 10月 21日 ( 1 )

小児病棟から(137) パク退院

 病棟に着き、詰め所に入るなり、看護師が私を呼び止めた。何か話しがあるという。

 やんちゃな子で、よく子どもたちの顔にいたずら書きをしたり、病人を相手にしているとは思えぬほどの乱暴な扱いをしたりする、「あんた、ほんまに看護師? 年いくつ?」と思っているので、どうせ冗談と思い、「もういいよ」とあしらっていると、「今日は真剣な話」と真顔になっている。彼女の周りにいた、医師や、他の看護師も彼女の言葉にうなずいていた。


 話はゲームのことだった。ファーン郡の病院に転院したゲームだが、めでたく退院の運びとなったそうだ。常に酸素チューブは装着していなければならないが、生まれて初めての帰宅になる。

 その件で、ゲームの母親が私と話したいと、病院に電話があったというのだ。酸素タンクは高いし、面倒を見切れないので、Vホームにやりたいが、その相談をしたいとのことだった。

 「……」

 言葉を失う。同時に、「やっぱり」という気持もある。

 「家の近くの病院であれば面倒を看れる」と、言い続けた母親だった。それがN県立病院に来ない口実だった。

 やっと一緒に居れる、帰宅するという段になると、育児拒否。「マイペンライ」のタイ人たちも、さすがにあきれている。

  
 そして、いつもの早い目の夕食がおわった頃、初めてパクが帰宅すると聞いた。遅かれ早かれこの日がくるとは思ってはいたが、こんなに突然に。

 もうチェンダオ病院からの迎えの車が到着しており、それで彼女を自宅まで送り届けるらしい。

 「パク、家に帰れるんだよ」と声をかけた看護師に反応したパクは、いやだとでも言っているかのように、少し泣き声をあげた。服を着せ、しばらくのお別れと、抱っこをして病棟を出、渡り廊下を散歩をする。ゲームと同じく、一度しか面会に来なかった、‘忙しい’母親の元へ帰って行く彼女。抱きながら、歩きながら声をかけられなかった。頭の中では色んな言葉、想いが渦巻いているのに…


 看護助手に抱かれたパクは、犬と、ウサギのぬいぐるみをしっかり抱きかかえ帰っていった。
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by karihaha | 2005-10-21 11:02 | 小児病棟から | Comments(0)