2006年 03月 09日 ( 2 )

小児病棟から(176) えくぼ

 以前のブログにも書いたが、S病院6階には、HIV感染者だけに割り当てられた部屋がある。現在の入院患者は3人。10才ぐらいの女児、9才の男児、そして3ヶ月の男児だ。

 年長の女児と男児には親や祖父母がついているが、もう一人の乳児には付き添いの姿がない。昨日初めて気が付いて、ベッドを覗きこんでみると、この子が飛びっきり可愛い笑顔を見せてくれた。それでコロリといってしまった私。

 とにかく常に笑っている。するとほっぺにえくぼがくっきり。必殺技「ねんねんころり♪」で手なずけようと試みるが、笑顔をくずさない。「あれ? この子には効かない?」と思いながら見ていると、笑いながら寝てしまった。眠いときはグズるもんしょ、普通は?

 そのあと見ていると、何かと言っては近づいてくる看護師たちの姿に‘魅せられた’のは私一人ではないと納得。

 
 9才の男児、アームの祖母が、ピィアックという名のその乳児の身の上を教えてくれた。『ファーン郡在住の両親は健在だが、子どもにもう興味がないと言って付き添わなくなった。退院後は祖父母に引取られる可能性が高い』

 ちなみにアームの祖母は、孫に付き添ってほぼ1年になる。ときどき祖父が交代するが、それ以外はずっと病院で暮らしている。想像のつかない忍耐力。本当に頭が下がる。


 この2.3日中には退院する乳児を親族が迎えにくるだろう。会って少し様子を聞きたい、今日テンの付き添いを了承したのにはその思いもあった。

 部屋に入ると、老婆が床に敷いたゴザの上で食事中だった。思いがけず早く会えたピィアックの親族は山岳民族と一目で分かる身なりをしていた。何気ない会話で家族の様子をさぐると、その老婆は母方の祖母だった。アームの祖母の言葉に反して、退院後は両親が面倒をみると言った。今日はチェンマイ近郊のメーテンに在住する祖母と、退院する乳児を引取るためファーン郡から来る母親が病院で落ち合うのだと言った。それなら余計なことをしなくてもいい。家族とともにあるのが一番なんだからと納得した。


 夕刻、その老婆が帰り支度をしていた。てっきり乳児を連れて帰るのかと思っていると、一人で帰ると言う。母親にしか乳児を引き渡せないという病院なのだが、結局母親が来なかったからだった。


 祖母が部屋を出るとすぐに、アームの祖母が乳児にお風呂をつかわした。ICUから出てHIV感染者の部屋に入ってからは、ずっと彼女が面倒をみていたらしい。

 バスタオルでくるんだ彼を受け取り、ベビーパウダーをまぶし、新しい部屋着を着せる。その間もえくぼをくっきりと見せながら、ずっと笑顔の彼。


 「退院しても着せるものもないんだよ」とアームの祖母。またこの乳児から目が離せなくなりそうだ。
[PR]
by karihaha | 2006-03-09 04:15 | 小児病棟から | Comments(0)

小児病棟から(175) 退屈なだけ?

 持ち上げたり、こきおろしたりと忙しいが、それでもテンのいる6階の病棟は8階に比べると『掟』が比較的緩やかだ。

 「24時間付き添えって言っても、出来んもんは出来ん!」という親たちには、病院に来ないという実力行使の道が残されている。これにはさすがの婦長も折れざるを得ない。まさか首に縄をつけて引っ張ってくるわけにもいかないしというところだろう。8階の婦長は、それでもせっせと縄を編んでいそうな感じなのだが…。

 
 N県立病院でならした私の『孤独な入院患者』の見分け術は、ここS病院でも効を奏する。今日だけでも4人のターゲットを発見。

 はっきり言って、食っちゃ寝のテンの相手だけでは退屈極まりない。4時間おきに6オンスのミルクを飲み干すと、目が重くなってくる。そこで「ねんねんころり♪」の必殺技をかけると、他愛もなく眠りこけ、2時間は起きない。

 N県立病院でも入院患者が一人だけの時などザラにあるのだが、これほど退屈したり、拘束感をもつことがないのはなぜか、とつらつらと考えてみる。あそこに行くのは私の意思、S病院の場合はテンのおばにかなり押し切られているからというところだろう。

 月曜日は、「お腹が痛い。子どもの学校に呼び出されている」。火曜日の朝の電話は、「いまから家に帰るね、仕事があるから。先生がこのままの状態だったら、あと2.3日で帰れると言ってた」ととりなす。今朝は着信音が聞こえないようにしていたが、10時過ぎたのでもういいだろうと戻すと、待っていたように電話がかかってきた。ワン切りではない、自己負担(当たり前)での電話についついとってしまった。

 「今週の土・日は付き添えないからね!」と先手を打つ。「今日はダメ!」と言えばいいものを、根が正直なもので…。すると、「大丈夫、今朝の回診で遅くとも金曜日には退院と言っていたから、丁度いいね?(どこが?)」

 私は私で、このあいだ払わされた酸素なんとかの器具代があったので、今回は付き添い費を一週間分は払わないぞ、と思っていたのだが、おばはその辺を読んでる? いやまたひねくれたことを考えている。遠慮していると考えておこう。だから内職に精をださなければいけないと。その方が精神衛生上よろしい。でも、結局ワリを食っているのは私なんだけど…。


 テンが寝ているあいだ、『孤独な病人たち』をかわるがわる面倒を見ている私を見て、付き添いの親やスタッフが「良い人」と持ち上げてくれる。

 「いやいや、ただ退屈なだけなんです」と言ってしまっては身もふたもないか?
[PR]
by karihaha | 2006-03-09 03:24 | 小児病棟から | Comments(3)