2006年 03月 30日 ( 3 )

小児病棟から(182) 錯覚

 入院患者が2階の病棟に上がって来て、まず行われるのが看護師による、保護者への問診と入院登録。その受付のテーブルがあるのは、私の定位置の前。

 Vホームからの4人の入院患者がすべてお昼寝中の昼下がり、おしめを畳みながら聞くともなしに耳に入ってきた会話。

 「それで? あなたはこの子のお父さん?」

 「いや、祖父です」

 見ると、いかにも具合の悪そうな2才前後の男児を抱いた40年配とおぼしき男性と、そばにはもう一人若い男性が立っていた。着ているものから山岳民族と分かった。

 「この子の両親はどうしたの?」

 「娘は気が触れていて、どこでこの子を妊娠したものやらさっぱり分かりません」

 黙ってその話に聞き耳を立てていた周りの看護師や、付き添いの母親たちが一斉にクスッと笑った。

 「いずれにしろ、ここは人手が足りないので、親族の内一人は付き添ってもらわないといけませんよ。出来るね?」

 しぶしぶと言った風情でうなずく祖父。

 「字は書けるの?」

 「書けません」

 青のスタンプ台に指を押し付けて、書類に拇印を押す祖父。若い方の男性もそれに倣って押した。

 
 山岳民族の人たちに対するときに出す、いつもの居丈高な看護師の声音は、この国の医療従事者の大半が陥っている『勘違い・錯覚』そのもの。
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by karihaha | 2006-03-30 04:14 | 小児病棟から | Comments(2)

小児病棟から(181) 親の身勝手

 もう一人の水頭症の女児。40度近い熱に苦しんでいた。

 こんなときには、‘チェット トゥア’といって、身体をぬるま湯で絞った布で清拭をするのがこちらのやり方。その最中、ふとした拍子に側頭部に貼られていたガーゼがずれ、患部が見えた。

 驚いたことに、シャントを入れている部分の皮膚が一部剥がれ、器具が半分見えている。テンも一度こういう状態になり、緊急手術が行われた。

 「S病院から来たという彼女。なぜこんな状態で戻されて来てしまったのだろう?」

 さらに清拭を続けていて、もう一つ驚いたことがあった。背中に大きなあざがある。どう見ても、床ずれのあとにしか見えない。乳児に床ずれ!? 今までの経験では一度も見たことがないので、看護師Cに確認すると、太った赤ん坊が同じ姿勢で寝かされっぱなしにされていると、赤ん坊でも床ずれになると言うのだが???

 
 もう一度シャント術をしなければいけない彼女だが、親が行方不明で手術承諾書が取れないため、一旦N県立病院に戻されたとのことだった。

 そうかと言っていつまでもこのままでも、と思っていると、昨日また彼女の姿が消えていた。手術のためS病院に戻ったそうだ。

 親が見つかったのか、それとも緊急性を考慮して手術を強行したのか? いずれにしろ親の身勝手さが、まだ6ヶ月にもならない乳児を、こんな形でも苦しめている。
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by karihaha | 2006-03-30 03:41 | 小児病棟から | Comments(0)

小児病棟から(180) 可能性

 純粋な意味での『ボランティアINチェンマイ』としては、一週間ぶりのブログ更新。

 では、毎日何をしていたのかというと、やっぱり病院に行っていました、昼間は。そして夜は日本からの友人とビールを片手に積もる話を。

 いま、友人が発った一人の部屋で、心を占めているのは、あの祖父に付き添われていた水頭症の女児のこと。



 医師と話し合っていた祖父と、若い母親。それを見やっていた私に、一人の看護師が、「S病院に転院するんだよ」と言った。

 翌日病院に行くと、ベッドに女児の姿はなかった。「もうS病院に行ったんだ」そう思った。

 しばらくすると、昨日とは別の看護師が、「昨日の子は退院したけど、また一人‘Mの子ども’が来たよ。彼女も水頭症」とそばのベッドを指さした。見ると、側頭部に大きなガーゼを当て、真新しい洋服を着せられた女児が寝ていた。

 この女児もさることながら、昨日の女児が『退院』という看護師の言葉が気になり、「S病院に転院したんでは?」と問いただすと、確かに退院し、チェンライに帰って行ったと答えた看護師。

 あの祖父と母親が選んだのは、S病院でシャント術を受けて治療を継続するという道ではなく、自宅で面倒を看ながら何かあれば今までの病院に行く、それ以外は‘自然’にというもう一つの選択肢。

 
 たとえ1%の可能性にでも賭けたいと、泣きながら手術を乞うテンのおば。その対極にあの祖父がいる。

 「どうするのが最善の策なのか?」

 瞼に焼きつく女児の笑顔を思い浮かべながら、中間で揺れている私。
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by karihaha | 2006-03-30 02:59 | 小児病棟から | Comments(0)